ピエール=ルイ・マシアとの最初の出会いは展示会でした。もともと僕はスカーフやプリント物が大好きなんです。しかし、スカーフで差別化できるブランド、と考えるとエルメス以外になかなか見つからないんですね。でもピエール=ルイ・マシアは非常に独特で才能のあるデザイナーだなと感じ、当初から注目していました。最初にピッティ・ウオモでコレクションを発表したときからですので、出会ってからはもう6、7年くらい経っているのではないでしょうか。

ファッション的な話のなかでは人間性というのはあまり言及されませんが、彼は人としてとても素敵な方です。優しくて非常に穏やか、そして大変謙虚な人。イラストレーターから出発していることも影響しているのか、興味の持ち方が実にアーティスティックです。例えば、古い植物図鑑や壁紙、ヴィンテージの布地など、インスピレーション・ソースが多岐多様ですよね。何年か前には、日本の写真家の作品を使ったコレクションを発表するなど、見ているものが幅広く、常にアンテナを張っている人だなと思います。単に派手なものや、綺麗なものをつくる人はたくさんいますが、彼の見つけてくるソースからは、常にカルチャーが感じられるのです。

日本にはまだファッションを表層的に捉え、カルチャーと切り離して考える人が多いのですが、実はファッションそのものがカルチャーですよね。最近になって和物が注目されていますが、それは日本に代々受け継がれてきたものや、地方ならではの伝統的な技術などに、人の気持ちが目覚めてきたからだと思います。近年のファッションの話題は「See now, Buy now」で、消費のライフサイクルが短いですよね。欲しいものが安く手に入り、見たものがすぐ買えることは、便利という意味では評価できるのかもしれませんが、飽きるために買っているとも言えるのではないでしょうか。

ピエール=ルイ・マシアの製品は、柄こそ毎シーズン変わりますが、どれも長く使えるものです。私も、何年も前のアイテムを未だに使っています。飽きがこないのは、やはり奥深さがあるからだと思うんです。ピエール=ルイ・マシアのプロダクツを通じて、買う人や紹介する人の気持ちがもっとカルチャー的なところに向いてくれたらいいなと思います。

僕は、その日の気候と自分の気持ちをシンクロさせて服を選ぶことで、気分をアップさせています。今日のように暖かく、桜が咲いているような日には、明るい色を着たくなりますね。もちろん、どこに何を着ていくか、誰に会うかは気にして選んでいますが、自分にとって服を選ぶうえでは「色」が何よりも重要です。そのため、スターティングアイテムもさまざま。「このソックスを穿きたいな」というように、コーディネイトがソックスから始まるということもありますし、「このスーツ着たいな」など大物から入り、ネクタイなどの小物を決めていく日もあります。

今日は、ピエール=ルイ・マシアのパジャマシャツに合わせるのなら何がいいかな、というところからコーディネイトを考えました。どういう風に着たらコスプレ的にならないかなと考えたときに、洗いのかかったチノパンツや履きなれた靴がいいのではないかと思ったんです。普段の生活で着る場合は、ルックブックとは違いますからね。ルックブックとは架空の世界なので時としてやりすぎになる。ピエール=ルイ・マシアを着るときも、全身着るということはまずないですね。1点どう取り入れるか。その取り入れ方をあれこれ工夫するのが楽しいのではないかなと思います。

僕がピエール=ルイ・マシアを着たくなる日というのは、綺麗な色を身につけたいときですね。たくさん持っていますが、地味なものはひとつもありません。ピエール=ルイ・マシアのシルクプリントは、イタリアのアキーレピント社が手掛けていて、色がすごく鮮やか。最近では、コットンシルクを使用したものもあるなど、マテリアルのバリエーションも増えています。同じ柄で生地を使い分けるというのも、このブランドならではの魅力ではないでしょうか?

また、アクセサリーのようにさまざまな装いにプラスできるというのも、ここの製品の強みです。クリエイティブなものや、綺麗なものが好きな人に支持されるのではないかと思います。けして安くはないですが、心に余裕のある人や、心に余裕を持ちたいなと思っている人が着るといいと思います。気持ちが塞いでいるときに、こういうものをパッと身につけて、前向きな気持ちになれたらいいですよね。派手なものを身につける勇気がないという人がいますが、逆だと思います。身につけることで、勇気が生まれるんです。一歩踏み出すために、綺麗なものを身につけるという考え方が素直だと思います。服って、本来そういうものではないでしょうか。それが今ひとつ日本では理解されていなく、過剰な足し算か、過剰な控えめが多いですよね。

僕は、毎日のように巻物を身につけています。ネクタイやスカーフ、マフラーなど。真夏は暑いからどうしようかなと思いますが、それでもバンダナやコットン系のスカーフなどを身につけます。自分にとってスカーフというのは、装いの仕上げなのかもしれないですね。一歩外に出るときに、気持ちをアップさせてくれるもの。お料理でいうと、最後にパッと加えるスパイスのようなものかもしれません。とはいえ、スパイスからスタートする場合もあります。サラダにケッパーを入れたりしますが、ケッパーを食べたいからサラダを食べるというのもあるかもしれない。喩えるなら、そういうことかもしれないですね。

栗野 宏文

株式会社ユナイテッドアローズ 上級顧問
クリエイティブディレクション担当

大学卒業後、ファッション小売業界で販売員、バイヤー、ブランド・ディレクター等を経験後、1989年にユナイテッドアローズ創業に参画。販売促進部部長、クリエイティブディレクター、常務取締役兼CCO(最高クリエイティブ責任者)などを歴任し、現職。2004年に英国王立美術学院より名誉フェローを授与。LVMHプライズ外部審査員。無類の音楽好きでDJも手掛ける。2011年よりツイードラン・トウキョウ実行委員長。